私の料理に対する一つのコダワリとして素材の味を生かすというのがあります。肉は肉の味、野菜は野菜の味がちゃんとしていないとダメなんです。「普通、料理は使った材料の味がするに決まってるだろ!」というツッコミもあるかと思います。インド料理の場合、スパイスに強い風味があるため、使い方を間違うと、素材の味を隠してしまうこともあります。
スパイスの強い風味も善し悪しです。例えば、マトンのようにクセの強い食材は、強めのスパイス使いで、そのクセを打ち消すことによりおいしい料理になるわけです。
インド料理に限らず、スパイスを多用する分野の料理のアピールポイントとして「たくさんの種類のスパイスを使っている」と謳っている場合があります。コレ、自分的にはちょっと異論があって、誤解を恐れず言わせてもらえば「種類を多く使えばいいってものじゃない。」と考えています。
絵の具を使って絵を描くときに、もともとある絵の具のいくつかの色を混ぜ合わせて新しい色を作ると思います。その時、いろいろな色を混ぜすぎると最後には黒くなりますよね。私はスパイスもそれにちょっと似ていると思っていて。スパイスを混ぜすぎると、最後は絵の具と同じように真っ黒になって、もう黒くなってしまったら、何をどのくらい入れたかは関係なくて、結局なんの味だからわからない。スパイスのoverdoseとでもいいますか。
どのスパイスも生かされていないし、スパイス同士がケンカして、結局互いのいいところを引き出せず、打ち消す方向に作用してしまっている残念な事例に出会ったこともあります。
そのような経験から、スパイスは種類を多く使えばいいというものではないという考えに至りました。具になる食材のバランスと、使うスパイスのバランスを考えて、食材もスパイスも最大限に力を発揮できるポイントを探すのが、インド料理をおいしく作るコツだと思います。