最近はおそらくそんなことはないのではないかと思うんです。でも、私が
パスポートを作ったころ、そして私の息子が
パスポートを作った時点ではまだ「インドの謎」は実在していました。
何が謎なのかと申しますと、インドが発行する
パスポートの名前です。
♪この「謎」インド国内では
パスポートに限らないです。
先日のインド料理教室で受講生様よりご質問がありました。食品衛生責任者講習会修了証が店内に掲示してあるのですが、その名前が「オムハリ」になっているのはどうしてですか?というもの。目のつけどころがシャープです!!
これ、語るとちょっと長くなりますが、語ってみます。私の名前は正式には、フルネームで HariOm Mehra です。無理やりカタカナに直したら ハリオム メヘラ です。ハリオムが名前で、メヘラが苗字(姓・氏・名字)です。
しかしながら、私の
パスポートの名前は HariOm だけ。ファーストネームだけなんですよ。日本なら山田太郎さんなんだけど、
パスポートの名前は「太郎」だけという感じ。
これってインドでは(今はわかりませんが)私がインドでパスポートを作った30年前には、ごく普通のことで、その10年後に申請した私の長男のパスポートはもやはり名前だけなので、20年ぐらい前の時点でも普通だったようです。
なんで名前だけなんだよっ!というのが日本的常識では想定の範囲外だと思うのですが、インドでは苗字は公開しなくていいという考え方がある(あった:過去形かもしれません)からなのです。
なぜ? ど〜して?
かといいますと、インドでは苗字によってその人がどの地域の出身で、どの部族に属しているのか、どのジャーティ(階層)に属しているのか、だいたい見当がつきます。だいたいと言うより実際は、かなり詳細にわかると言っていいかも。苗字=出自 という社会なのです。
つまり苗字を聞けばカースト(身分)がわかる。というわけです。今となってはカーストはなくなっているんですけどね。過去の遺産であるにしろ、ともかく自分のカースト(身分)をあえて公開する(させる)必要はないという考え方が一般的です。別に隠すというわけではないのですけどね。積極的に公開はしません。
そのため、インドでは
パスポートや
運転免許証など公に発行される身分証に相当するものを「名前だけ」で作る場合が多いのです。(でも今は違うかもしれません。)
これ、同じ名前だったらど〜すんだ?という話が当然あるわけなんですが、そこは生年月日(
*1)と住所、そしてほぼもれなく「父親の名前」というのを書く欄がありますので、その組み合わせで重複が避けられる仕組みになっているかと思います。
♪フルネームにしたところで、やはり同姓同名は不可避でしょうけど。
♪インドは人口も多いですしね。<関係ないかな?
話はそれますが、
そんなわけでインドでは、たとえ成人しても、たとえ父親が亡くなってもなにかと「父親の名前」を書く必要に迫られるのです。
携帯電話を買うときの契約書なども、父親の名前を書く欄があるのですよ。
♪親が離婚したらど〜すんだとかありますケド。
♪昔のインドは基本離婚はあり得なかったんですが
♪最近は日本同様、結構あるみたいです。でも
♪
結婚はやっぱりお見合いです。
そんな「インド的常識」により名前だけで作られている私のパスポート。初めて日本に来る手続きをするときに問題になりました。
来日以前にすでに、香港で仕事をしていたのでパスポートは持っていました。ですから、あとは日本の企業(インド料理店)が私を招聘するという形の手続きが必要でした。
そこで問題になったのが名前。日本側では苗字がないなんてありえないし。氏名の欄に書くべきものがが「名」しかないわけであります。手続きできません。ということで、名前を二つにわけてハリオム を ハリ オム に分割して無理矢理「氏名」にしたんですね。このあたりのいきさつを私は全く知りません。
♪誰がどうやってわけたんでしょうか?
♪インド料理店の事務方でしょうか?
♪あるいはインド料理店が手続きを依頼していた士業の方?
♪あるいはインド側のエージェントが苦し紛れに指示?
♪なんなら ハ・リオム とか、ハリオ・ムでもよかったですよ。(笑)
しかもその際に 姓が「オム」で、名が「ハリ」とされたので私はオムハリとなったのです。日本の正式な書類上の名前は全てオムハリなんですよ。自分的には違和感アリアリなんですけどね。なんで姓を「ハリ」にして名前を「オム」にしてくれなかったのかな?(笑)
山田太郎さんが「太郎」というパスポートを持っていて、外国への査証を申請したらなぜか名前が「郎・太」になっていた。みたいな感じですよ。いやいや、そんなわけで銀行の口座から各種免許証やら、クレジットカードなどなどとにかくすべて「オムハリ」なのよ。
そして更に謎なのが、
長男は名前だけのパスポートなのですが、それがどうにも分割できない名前なので、(分けられなくもないですが、カタカナでは分けられても、 アルファベット表記を分割するのがムリムリです。)長男は日本の正式書類上も名前しかないんです。住民票とか、外国人登録証とかですね。10年の間に日本国内で「インドの常識」が想定の範囲内として認知されたのか、単に手続きする人によってお役所の対応が違うからなのか、どうにもならずに例外処置なのかはよくわからないんですけどね。
更に蛇足なのですが、
次男のパスポートは氏名でできているんです。個人的にはそれを見たとき「なんでこの人だけ苗字入り?」と思ったんですが、なにしろ私自身が手続きしたわけじゃないんでどういういきさつで、長男は名前だけで、次男はフルネームになったのかまるでわかりません。まさにインド的ということでしょうか。
その後弟の子供らも続々とパスポートを作っているわけなんですが、一番小さい姪が数年前に作ったパスポートは名前だけ。やはり「インド的常識:名前だけパスポート」は健在だ!
結論:氏名にするか、名前だけにするかはインドでは気分で決められる。ケド、たぶん1回それに決めたら変更はできない。
*1
生年月日に限らずですが、インドの公的機関の発行する、例えば免許証などの生年月日や、名前などが間違っていることがよくあります。コレ、日本では考えられないですが、(日本でもまれにはあると思いますが、本当に稀。)インドでは結構よくある話なので、発行してもらったその場でチェックして、すぐ修正してもらわないといけません。後日、修正をするのがこれまたものすごく困難なので、もらったその場で厳重チェック! これが鉄則。コレ、インド的生活では本当に大事なことです。性別が違うとか、ありえない間違いもありますからね。
たかが名前、されど名前。
そんなわけで、苗字を公にしていないインド人に対して苗字を尋ねるという行為はある意味、他意はないにしても失礼というかタブーというか、避けたほうがいいかもしれません。
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インドのパスポート